下鴨神社様より、以前からお預かりしていた玉垣の古材で額縁製作のご依頼をいただきました。
玉垣とは、神社や神域の周囲に巡らされる垣のこと。
遷宮の都度、大切に古材を保管されてきたそうで、いつの時代のものかははっきりとした記録がないそうです。
この額縁に入れる絵は、と申しますと、
『ベルサイユのばら』の作者の池田理代子先生が下鴨神社のために描かれた、御朱印の原本です。
ことし5月から、下鴨神社の相生社(あいおいのやしろ)と下鴨神社の第一摂社である河合神社で、
池田先生の描いた御朱印が授与されています。
毎年5月の京都の風物詩・葵祭に合わせた文化事業の一環として企画され、御朱印に選ばれた題材が
下鴨神社ゆかりの人物である紫式部と、河合神社の御祭神・玉依姫命(たまよりひめのみこと)でした。
2枚の絵の大きさに合わせ、2つの額縁を製作しました。
マット、ガラス、組立方法すべてに配慮した、全力の仕事です。
特にガラスは、原料に極力鉄分を使わない「高透過ガラス」を採用しました。
それも、なかなか手配が難しい3mmの厚さのものです。
高透過ガラスは、普通のガラスと比較すると青味が抜けていて透明度が高いのが特徴。
芸術性を損なわず作品を保護するのに適していると考え、この額縁に使うことを決めました。
裏板も、額裏止めや三角金具等の金属を使わず、倹飩(ケンドン)式※で仕上げたため、長く保存しても錆などが
出る心配がありません。
今回のご依頼は、この板一枚ですべて完結しました。
最初に製作のお話をいただいたとき、「ラ・ルースの〝いま〟を表現してほしい」というお言葉がありました。
打合せやデザイン案を提示し、お客さまと企画を練り上げるのが常ですが、今回はほぼお任せで額縁が完成。
かなりのプレッシャーを感じましたが、30数年続けてきた木工業のすべての知識と知恵、経験を動員し、
仕事にかかりました。
先の写真のあの朱色の板1枚からフレーム2個をつくり、残った材がこれだけ↑です。
余すことなく、ムダなく使い、残った端材はお返ししました。
2つの額縁をそれぞれご覧ください。
こちらが紫式部の絵を入れる額縁と外箱。
額縁は、元の玉垣の朱色を残さず、かといって磨きすぎないよう、美しい木目が活きるようにきれいに仕上げました。
こちらは、もとの玉垣の色が活きています。
額縁に池田先生が描かれた原画をおさめ、さらに箱にしまって奉納されることになり、箱屋さんもこだわりを
共有してくださいました。
2枚の絵に合う色で、それぞれ外箱を作ってくれたのです。
紫式部の名にちなみ深い紫色の和紙貼りと、フレッシュな黄緑色の外箱となりました。
御朱印の原画をお借りすることができ、丁重にお返ししました。
下鴨神社様から、「古い玉垣が丁寧な製作により新たな形に生まれ変わりましたこと、
大変ありがたく思います」とのお言葉をいただきました。
この度のご縁に、深謝いたします。
※倹飩(ケンドン)式
別名「上げ落とし式」とも呼ばれ、上下に溝をつくり、板を上から差込み、下に落とし込むという手法。