冬の足音が近づく小田原です。
こんな日は、木のボウルにあたたかなスープを並々注ぎ、フーフーしながらゆっくりしたくなりませんか。
TAKUMI館に、職人冥利に尽きるといえる器の修理のご依頼をいただきました。
始まりはことし3月ころのこと。
木製品を扱っているTAKUMI館なら可能かも、と修理に一縷の望みを抱き来店されたのは、
ご両親の結婚式の引き出物の木の器を携えたお嬢さまでした。
器を見たTAKUMI館の店長、一目で「キジヒキに似ているな」と思ったそうです。
亀裂が複数箇所入った状態の器を前に、修理の可否を工場に問うため、いったんお預かりしました。
すると、現役バリバリでラ・ルースで活躍中のロクロ職人・日下部さんの先輩が製作したもの、ということが判明!
ラ・ルースが買い取った日下部産業で製造していたデザインであると分かったのです。
お父さまたっての希望で、修理に向けて策を練り始めました。
日下部さんからは、
経年により材にくるいがあり、接着してもうまくつかない点があること。
亀裂部分を開いて接着剤で埋めていく際に力が加わるため、別の箇所の亀裂が出てくる恐れがあること。
接着の部分が多くなるため、その点を気になさらないようであればやってみることはできるが、作業に日数を要すること。
完璧に修理が可能かは、判断が難しいところである、という見解が示されました。
職人からの返答をご依頼主に伝え、「それでも可能な限りで」と修理の意志を確認し、作業が始まりました。
春が過ぎ、お預かりしてから5ヶ月ほどを要しましたが、修理の完成した器がこちらです。
「塗装当時、塗料として使われていたオイルステンが廃盤となっており、似たような色味での塗装を施しました。
頑張って接着して復元したものの、木部のゆがみなどにより、またどこかのタイミングで接着が取れることもあるかもしれません。
長年にわたり、お使いいただき、直して使用していただくというお客さまの想い、大変嬉しく思います。」
職人からご依頼主に、上記のメッセージを添えて修理の終わった器を納めました。
器を取りに見えたお嬢さま、大変喜んでくださいました。
50年もの歳月を経てなお、大切に使っていただける。
木のいのちに人の想いを添えるもの作りに取り組むわたしたちにとって、原点に立ち返るようなご依頼でした。